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2006年 12月 27日
※本記事は、1年半ほど前に書きかけて放置していたレポートに加筆して掲載したものです。
【回路編】 今回のテーマは、パワーMOS-FETの使いこなしです。300Wアンプを試作した時に大量に購入してボツになった2SK1530/2SJ201が余っているので、これを消費したいという理由もあります。 オーディオアンプにおけるMOS-FETの使いにくさの理由を整理してみると、 1.バイポーラTrに比べて同じ電流値でのgmが低いため、アイドリング電流を多く流さなければならない。またAB級動作時のクロスオーバー付近のつながりに難がある。 2.ゲート入力容量が大きく、かつ発振防止のゲート抵抗が必要なので、実用上の周波数特性が悪くなり、グローバルNFBループの2ndポールを高く保つのが難しい。 3.バイポーラTrのような大電流域でのhFEタレがなくdi/dvがプログレッシブ特性であるため、また電圧制御(高Zin)という本質上ドライブインピーダンスによる電流制限が掛からないため、暴走モードで逝く時は一気に逝きやすい。 特に困るのは2.で、十分な値のゲート抵抗を与えるとフォワードパスに1MHz前後のポールができてしまいます。これではループカットオフ周波数が500kHz程度のまともなワイドラーアンプなど作れるはずもありません。 そこで俎板に上がるのが電流ドライブです。つまりフォロワによる低Zoのドライバを介さず、高Zoの電圧振幅(I/V)段で直接MOS-FETを駆動するという手です。これなら実装さえ上手くすればゲート抵抗を省略できるはずです。また単段で使ってこそ、Zinが無限大に近いため多段ダーリントンにせずともI/V段のDC-低域オープンゲインを極めて高く確保できるというMOSの利点が最大限に発揮されます。 その場合、MOS-FETの入力容量そのものがドミナントポールを作る位相補償容量になりますが、データシートによれば2SK1530/2SJ201を合わせた入力容量は単純計算で約2000pFもあります(実はこれ、大きな読み違いのあったことが後に判明するのですが・・・)。したがって、常識的なGB積を得るためには初段gmにかなり大きな値が要求されます。 またgmもさることながら、ネックは大容量をドライブすることに伴うスルーレートの問題で、これを考えるとIoutが定電流源で縛られ、振幅が増すほどgmが低下し、最終的にゼロとなる差動増幅回路はたいへん心許ありません。対して電流帰還(トランスインピーダンス)アンプにすれば電流制限の問題からは解放されますが、DC安定性は著しく不利になります。シンプルな回路にしておいてDCサーボを追加するのもマヌケですし、なるべくならDC100%帰還だけで実用になるアンプにしたい。(とにかく手抜きをしたいというのもありますが) そんなこんなでつらつら悩んだ末の結論が、高gm・J-FETによるコンプリメンタリ差動です。ダイヤモンド差動と呼ぶメーカもあったようですが、要するに窪田式の初段でお馴染みの回路です。N-ch差動とP-ch差動の共通ソースを突き合わせることでテール電流源が不要という回路で、見方によってはAB級ブリッジアンプそのものですから、原理的に電流制限がありません。 もっともJ-FETの場合、Idssを超える領域は使えない(ゲートをゼロバイアス以上まで振り込むとゲート電流が流れ始め、定格を越えると破壊します)ため、これが動作上の限界となります。が、それでも動作振幅が大きくなるほどgmが低下する普通の差動とは根本的に性格が異なり、出力電流が大きくなるほどgmも高まります(ただし、これは後述するように適度に抑えてやる必要がありますが)。しかもあくまで差動ですからDC安定性はバッチリです。 初段J-FETは、定番の2SK389/2SJ109(いずれもデュアル)に決定。と言いますか、ほぼ選択の余地はありません。gm(Typ)=20mSですから、差動の片側から出力を取り出すとして10mS×2(コンプリメンタリ=並列なので)=20mS。位相補償容量を仮に2000pFとして計算するとGBP=1.6MHz。クローズドゲイン=×10としてループカットオフ=160kHz。まだまだgmが不足します。 仕方ないので、初段ドレイン出力を反転するカレントミラーに×2の電流ゲインを与えます。ミラー効果によるf特の悪化は、この程度のゲインなら問題にならないでしょう。 さらに差動出力のもう片方をムダにしないため、反転入力側のドレインをカレントミラー・スレーブ側のエミッタに接続。こちら側は近似的にフォールデッド・カスコードとして動作します。図のようなトポロジで、アドミッタンスはおよそ3倍になります。ちなみにこのカレントミラーもどき回路、初段の動作振幅が大きくなるとまず上下対称のいずれか(出力電流が減じる方)がカットオフします。次いで差動自体も片方がカットオフしてB級領域に突入するので、振幅が大きくなるにつれて、アドミッタンスが×3→×1.5→×1と減少します。が、スルーレートを計算すると初段電流が片側5mAとしても2.5V/μsまではノンカットオフ動作しますので、気にしないことにします。そもそも初段は電流増に伴ってgmが高まりますので、それとの相殺でトータルアドミッタンスの変動が程良く抑えられる可能性もあります。 アドミッタンスの変動を適度に抑制するという意味では、初段共通ソース間に入れるバイアス抵抗も同じ役割を持っています。アンプの安定性を考えると、大振幅(大電流・大出力)域でゲインが高まる特性は発振や暴走につながりやすく好ましくありません。振幅とともにわずかに低下する特性が安全と言えるでしょう。このへんは出力段のVdsに依存する容量変動やgm/電流カーブも絡んできて予測が難しいので、実測して様子を見ることにします。 回路図です。バカみたいにシンプルです。ドライブフォロワが追加される前の初期窪田式にそっくりですが、あくまで結果論ということで。 DC100%帰還は、今回のような方法の他にも、β回路シャント抵抗とGNDとの間にCを入れる方法がありますが、β抵抗値が今回のように低いと後者の方法ではべらぼうに大きな値のCが必要となるので却下です。この箇所のCの品種や銘柄にこだわる人もいるようですが、私はごく普通のノンポーラ電解を平気で使います。そんなことで音質など変わりませんので。 終段ゲート-出力間のツェナDiは、出力短絡時の電流制限保護用です。バイポーラTrほどgmが高くなくVgs振幅が大きいので、この程度の簡素な方法で十分実用になります。 【実装・電源・シャーシ編】 高周波リターンは例によって放熱器ベタアースに頼るので、シャーシに銅板を敷き、中央にGND集中(スター)ポイントとなるL字アングルを立て、両chのブロックコン中点をここに結びます。SPのリターンは当然同じポイントに集中し、入力ピンジャック中点からのGNDラインもフェライトビーズを介しつつこのL字アングルの根元に落としますので、入力信号やNFB信号のリターン電流は、左右の基板(放熱器付近)の接地点からシャーシに敷かれた銅板を通ってスターポイントに戻ることになります。必ずしもベストとは言えませんが、表面上の1点アースにこだわるあまり、インダクタンスの高い細い電線でスターポイントに戻すよりは遥かにましでしょう。これ以上を追求しようと思うと左右の放熱器と電解コンとを立体的に空間配置しなければならなくなりそうです。 ブロックコンの上、横一線に並んでいるコンデンサは前段用電源の平滑用です。ごくごく単純に、ファイナル電源から100Ω+2200μFでデカップリング&リップル除去して供給します。ドライブ段の方がファイナルより電源電圧が低くなるためパワーを絞り出すには損ですが、どうせ飽和電圧の高いMOS-FETですから気にしません。 お馴染み、AC電源ラインと入力ラインのコモンモードチョークは必ず入れます。ちなみに入力ラインのフェライトビーズはFB-801ではなく、特性不明の放出品を4個直列にしたものです。あちこちパッチンチョークが入っているのは超高域でのGNDループ防止策です。 【特性】 DCオフセットは無調整でも1mV未満。さすがはモノリシック・デュアルFETの差動です。 最大出力は約16W@8Ω(16Vp-p)。先に述べた通り、ファイナルより先にドライブ段がクリップします。 周波数特性をテストしてみると、思ったよりループカットオフ周波数が高いことに気がつきました。とりあえず終段アイドリング200mA、クローズドゲイン=×11だと、8Ω負荷でなんと2MHz強までフラットです。しかも、ほぼそれに近い周波数までフルパワー出力可能。広いPBW(パワーバンドワイズ)は電流制限要素のない構成の恩恵でしょう。 フォワードアドミッタンスの計算が合っているとすると、位相補償容量は当初単純計算の1/4の約500pFということになります。考えてみれば当たり前で、フォロワの場合、入力容量のうちCgs分は自己ブートストラップ機能によりキャンセルされて(1-A)倍になります。Crss(Cgd)+Cgs残存分が実質的な補償容量になるわけです。そのため、負荷インピーダンスを8Ωから4Ωにすると、Aが低下するためカットオフ周波数も20%ほど低下します。 もう少し細かくテストすると、振幅が大きくなるほどカットオフ・PBWともに低下することがわかります。先に述べた、振幅とともにトータルアドミッタンスが漸減する安全な特性です。また、0V近辺で小振幅動作させた時よりも、大きなDCオフセットを与えて電源電圧近くで小振幅動作させた時の方が10%ほどカットオフが低いことに気付きます。CrssのVds依存性がそのまま表れている(当然、Vdsが低いほどCrssが増す)わけですが、フォロワ使いの場合、Vds低下=出力電流増=gmが高まる時に補償容量も増して安定傾向に向かうので好都合です。 と同時に、ここでの非直線性が歪率の限界を規定します。補償容量が非直線性の大きい素子寄生容量ですから、さほど歪率の低いアンプにはなりえませんが、これは承知の上です。 何れにせよf特がここまで伸びている必要はないので、クローズドゲインを×21まで高め、カットオフを1MHz強にしました。当然、NFB量も1/2になるので歪率は倍になりますが、それよりも位相余裕の確保を優先します。ゲイン×11だと数%程度のオーバーシュートが見えていたので・・・。 残留ノイズは、0.22mV(Lch)/0.19mV(Rch)。 8Ω/15W出力時のTHD+Nは以下の通りです。 100Hz 0.03% 1kHz 0.05% 10kHz 0.15% 予想通り決して優れた数字ではありませんが、構成の簡素さを考えれば十分でしょう。 なお1W出力時は各周波数とも0.01%台で、残留ノイズが支配的となります。出力が増すほど歪率が増す管球アンプ的特性。 試しにアイドリング電流を増すと、カットオフがさらに伸びるとともに歪率も低下します。600mA程度がベストですが、放熱器容量の関係で200mAで妥協しています。それでも暖かい季節の放熱器温度は50℃程度になります。 最後に。初段非反転入力側ゲート/GND間の1000pFは、G-S間寄生容量を通じた反転入力→非反転入力への帰還信号すっぽ抜け対策です。K389/J109は高gmと引き替えに電極間容量が大きい(特にJ109のCiss=95pFは驚異的)ので、非反転入力側に大きめの容量を入れてやらないと超高域で正帰還が掛かって不安定なアンプになってしまいます。テスト時など低Zoのオシレータを直結して測定する際には表面化しませんが、信号源インピーダンスが高くなるほど影響が強く現れますので、送り出し機器が高Zoだったり入力にVRを加えたりするときは要注意です。 こうした対策を抜きに「K389/J109の音質傾向は・・・」などと語る文章を目にしたことがありますが、まったく無意味。窪田式を通じて極めてポピュラーな石なのに、こうした基本的なtipsすら流通していないのは困ったものです(と言っている間に、石自体が流通しなくなっているようですが・・・orz)。
by daluhmann
| 2006-12-27 14:46
| 半導体アンプの製作
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