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2005年 12月 16日
ZDRの実験に気を良くして、以前から考えていたアイディアを実験してみました。
管球ワイドラー風の高域位相補償が苦しいのは、OPTの手前ですでに位相が90度回ってしまっているからです。90度回っているところにOPTでの90度×2=180度の位相回転が加わりますので、すでにOPTの1stポールの時点でNFBの安定条件を超えてしまいます。だからこそループカットオフ(利得交点周波数)を可聴帯域ギリギリの20kHz強と極めて低く設定し、あとはβ回路の積分補償や微分補償で頑張るわけです。 しかし、それなら何もワイドラー位相補償段を-6dB/octで落としっぱなしにせずとも、いわゆるリード(進相)補償を加える、つまりOPTの1stポールを打ち消すようにゼロを作ってやればいいじゃないか、という気もずっとしていました。方法は超がつくほど単純で、位相補償コンデンサ(Cc)に直列抵抗を入れるだけです。ただラグ・リード補償では味気ないので、「ゼロ・ワイドラー」となんだかカッコいい名前をつけておきましょう(笑)。 回路図です。ZDRの最終仕様がついているのでやや複雑に見えますが、本質的な変更は矢印のついた100kΩだけです。Cc=22pFとの直列で、72kHz強にゼロが出来ます。この周波数から上で、6BQ5はただのP-G帰還のフラットアンプになるわけです。この周波数を、ZDR誤差検出器のfc=75kHzとほぼ一致させたのは偶然ではありません。 これ自体は何らの不安定さも生む余地のない変更ですが、ZDRとの組み合わせで配慮が必要です。なにせZDRはCN(550pF)とCcとのバランスで安定性を確保していますので、誤差増幅器のトランスインピーダンス(=I/V変換の負荷、ここではCcとその直列抵抗)が容量性から抵抗性に切り替わるところで、誤差検出側のV/I変換素子も抵抗性に切り替えないと高域でゲインが暴走→発振してしまいます。 これは100kΩのCc/CN=1/25倍の値の抵抗を同じく直列に入れてやればよく、4kΩとなります。誤差検出器(2SA1546)のエミッタ内部抵抗が直列に加わりますので、抵抗値の誤差を考慮に含めてもまず発振の危険性はないでしょう。 ちなみにこの4kΩとパラに入っている10pFは、6BQ5のCpgによってトランスインピーダンスが再び容量性になる(要するに一般的なミラー効果)領域に対する高域補償です。実際、これがあると無いとでは、波形の違いは見られませんが音は変わります。2SA1546単体のVHF帯での安定性は、ベース〜GND間に入っている4.3kΩで確保します。 さて、フォワードパスにゼロを作ってやることで、位相余裕はどうなったでしょうか。視覚的にハッキリ確認するため、オーバーオール帰還量を通常の3倍まで深くして方形波を入れてみます。(当然、入力LPFは外し、β回路の微分=進相補償は無し) おお〜、多少のリンギングは出ますが、ぜんぜん方形波ではないですか! 帰還量3倍でこの感じだと発振までもうあと3倍は行けそうですから、通常帰還量での位相余裕は80度(ループカットオフから2ndポールまで約1decade)程度は確保できているのではないでしょうか? ちなみに、同じ状態でZDRをオフ(OPT2次側〜ZDR誤差検出器の配線を外す)にするとこうなります。 うーん、位相余裕そのものはこちらの方が少ない感じですが、細かいリンギングはありません。ZDRオンでビロビロするのは、ループカットオフから先の減衰カーブが必ずしも正規的ではないからでしょうか?? なにせゼロ・ワイドラーの効果は劇的です。オーバーオールの2ndポールがおよそ200kHz辺りまで飛びました。こんなことなら最初からこうしとけば良かった・・・。 あとは最終的な微調整と音合わせです。入力のLPFやフェライトビーズ(コモンモードチョーク)、β回路の微積分補償などを、理屈と聴感を頼りに決定します。最終仕様の方形波応答(通常帰還量、入力LPF無し)はこんな感じです。 ZDRオン ZDRオフ ZDRオンの方は、波形にかすかな角張り=リンギング成分が残っていますが、ほぼ綺麗なハイ落ち方形波です。対してZDRオフでは、ゆるやかなオーバーシュート(波頭の盛り上がり)が見られます。ZDRオンでOPTの2次減衰が若干折り上げられ、位相余裕が増大していることが一目瞭然です。いずれにせよ、低中域で30dB以上もNFBの掛かった管球アンプで、こんな波形は滅多に見られませんぜ、旦那。 さて肝心の音ですが・・・うーん、これは微妙だぁ! 歪みは当然ながらZDRオンの方が小さいです。これはもう耳で聴いても明らかにそうとわかります。輪郭の鮮明さ、音が手前に迫ってくる感じもZDRオンに軍配が上がります。それに比べるとZDRオフはどこかフォーカスが甘く、わずかに遠くで鳴っている感じがする一方で、ナチュラルと言えばナチュラル。どっちがいいんでしょうねー、これは?? ZDRをオン/オフするスイッチでもつけて、いろんな方に聴き比べていただきたいところであります。 original entry 2005. 2. 18. up おまけ:はらわたの図どうしてこうも、と思うぐらい手狭な球アンプです。追加回路は例によって空中ブランコ。 底板についている石はB電源用のMOS-FET(この写真を撮ってすぐお亡くなりになり、今はバイポーラになってますが)。電源もやっぱりワイドラーです。 --------------------------------------------------------- その後の調整 誤差検出器のfcを決めるLPFの取り回しを少々変更し(VHF安定用のベース抵抗を通常の位置に)、LPFのCの値を10pF→8pFにしてfc=約88kHzまで高めました。75kHzでは少々低すぎたようです。この変更でZDRオン時のリンギングがだいぶ減るとともに、どう聴いてもZDRオフよりオンの方がいいと断言できるようになりました。 さらにオーバーオールのf特の変化に応じてβ回路の位相補償を微調整。このへんまで来るともう完全に耳が頼りです。進相補償の容量は5%の変化でも音が随分変わりますので、直列容量を交換してベストを探ります。出力のZobelネットワークは超高域でモロに純容量負荷になるセオリー無視の設定ですが、これは決して何かの間違いではなく明確な理由があります。 あとは入力フェライトビーズの数を増やして電源回路の手直しも行い、実験ではなく実用に足るところまで音質を煮詰めました。ここまでNFB技術の塊になってしまうと、もはや「球らしさ」とか「シングルらしさ」といった言葉を使うことにほとんど意味はないでしょう。
by daluhmann
| 2005-12-16 03:46
| 真空管アンプの製作
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